はじめに
脳梗塞からの退院後、多くの患者がリハビリテーションを続ける一方で、体内では見過ごされがちな「慢性炎症」が持続していることがあります。慢性炎症は、脳梗塞後の回復過程に悪影響を与え、さらなる合併症や再発のリスクを高める要因となります。今回の記事では、脳梗塞後の慢性炎症がどのように発生し、どのように回復に影響を与えるか、さらにその炎症を軽減する方法について解説します。
1. 脳梗塞の方へ 慢性炎症について
脳梗塞後の急性期の炎症は体の修復メカニズムの一環として発生しますが、時間が経つにつれ炎症が慢性化し、低度で持続的な全身性炎症が体内に広がることがあります。これが「慢性炎症」と呼ばれる状態です。脳梗塞から数ヶ月が経過しても、血液中には炎症性サイトカイン(例:インターロイキン-6(IL-6)、C反応性タンパク質(CRP)など)が高いレベルで残っていることがあり、これが全身の臓器や組織に影響を与えます【1】。
慢性炎症は、脳の再生や神経修復を妨げるだけでなく、動脈硬化や再発脳卒中、心血管疾患のリスクも高めることが指摘されています【2】。また、認知機能の低下や血管性認知症の発症にも関連しており、脳卒中後の生活の質に大きな影響を与える可能性があります。発症前から慢性炎症状態、発症後も慢性炎症が回復を邪魔している
2. 脳梗塞の方へ 慢性炎症と回復
脳梗塞後のリハビリテーションは、神経可塑性を促進し、運動機能や日常生活の活動を回復することを目的としています。しかし、慢性炎症が持続していると、この回復プロセスに悪影響を及ぼすことがあります。慢性的な炎症は、脳内の神経細胞の修復を妨げ、神経回路の再編成を阻害することが報告されています【3】。
さらに、慢性炎症は脳内の血管にも悪影響を与え、血流の改善を遅らせたり、新たな血管の形成を妨げたりする可能性があります。これにより、脳卒中後のリハビリテーションの効果が低下し、回復が遅れる要因となります【4】。
脳卒中後の慢性炎症は、再発のリスクを高めるだけでなく、心血管疾患や糖尿病などの他の疾患の発症リスクも増加させます。そのため、脳梗塞後の長期的な回復と健康維持のためには、この慢性炎症を管理することが非常に重要です。
3. 脳梗塞の方へ 慢性炎症を変えるには
慢性炎症を抑えるためのアプローチとして、薬物療法や生活習慣の改善が挙げられます。抗炎症薬の使用は、炎症を直接的に抑える方法の一つであり、特にインターロイキン-1β(IL-1β)を抑制する薬剤(例:カナキヌマブ)は、心血管イベントのリスクを減少させることが示されています【5】。これにより、脳卒中後の再発リスクを抑える可能性があり、炎症管理の一つの手段として期待されています。
生活習慣の改善も重要です。適度な運動や健康的な食事は、慢性炎症を抑制する効果があることが知られています。特に、オメガ3脂肪酸を多く含む食事や地中海式ダイエットは、抗炎症作用があるとされています【6】。また、禁煙やアルコールの節制も、炎症レベルを低下させるために効果的です。
さらに、ストレス管理や十分な睡眠も、炎症反応を抑えるために重要です。慢性的なストレスは炎症を増悪させることがあり、リラクゼーション法やメンタルケアを取り入れることで、全身の炎症反応を軽減する効果が期待されます【7】。
終わりに
脳梗塞後の慢性炎症は、回復を遅らせるだけでなく、再発や他の健康リスクを高める要因となります。そのため、退院後も慢性炎症を管理することが重要です。薬物療法や生活習慣の改善を組み合わせることで、炎症レベルを低下させ、長期的な回復を促進することが可能です。適切な対策を講じることで、脳梗塞後の生活の質を向上させ、健康な生活を取り戻す一歩を踏み出しましょう。
【引用文献】
- Esenwa C, Elkind MSV. Inflammatory risk factors, biomarkers and associated therapy in ischaemic stroke. Nat Rev Neurol. 2016;12(10):594-604.
- Jayaraj RL, Azimullah S, Beiram R, et al. Neuroinflammation: friend and foe for ischemic stroke. J Neuroinflammation. 2019;16(1):142.
- Iadecola C, Buckwalter MS, Anrather J. Immune responses to stroke: mechanisms, modulation, and therapeutic potential. J Clin Invest. 2020;130(6):2777-2788.
- Chamorro Á, Meisel A, Planas AM, et al. The immunology of acute stroke. Nat Rev Neurol. 2012;8(7):401-410.
- Ridker PM, Everett BM, Thuren T, et al. Anti-inflammatory Therapy with Canakinumab for Atherosclerotic Disease. N Engl J Med. 2017;377(12):1119-1131.
- Calder PC. Omega-3 fatty acids and inflammatory processes. Nutrients. 2010;2(3):355-374.
- Black DS, Slavich GM. Mindfulness meditation and the immune system: a systematic review of randomized controlled trials. Ann N Y Acad Sci. 2016;1373(1):13-24.
ブログを書いたスタッフ
大村 颯太
理学療法士/健康科学修士 京都 脳梗塞 脳出血 自費リハ 脳卒中後の自然に動ける身体づくりをサポートしています。
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