脳梗塞の方へ 全身性炎症③ 亜急性期の免疫抑制について
大村 颯太

脳梗塞の方へ 全身性炎症③ 亜急性期の免疫抑制について

はじめに

脳梗塞は、脳内の血流が遮断されることにより脳組織が損傷を受ける深刻な疾患です。発症後の急性期に炎症反応が起こりますが、その後、全身の免疫系は次第に抑制状態に移行する「亜急性期」を迎えます。脳梗塞後の免疫抑制は、感染症のリスクを高め、患者の回復に大きな影響を与えるため、適切な理解と管理が必要です。この記事では、脳梗塞後の亜急性期における免疫抑制のメカニズムについて、脾臓や自律神経との関係を中心に解説します。

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1. 脳梗塞の方へ 亜急性期の免疫抑制について

脳梗塞の発症直後には、脳内での急性炎症反応が全身に広がりますが、数日経過すると、体は免疫系を抑制し始めます。これは「免疫抑制」と呼ばれる現象で、通常、発症から数日から1週間の間に見られます。脳卒中後の急性炎症反応を抑え、過剰な炎症が脳や体にさらなる損傷を与えるのを防ぐ役割がありますが、同時にこの免疫抑制が過度に進行すると、体が感染症に対する抵抗力を失うことになります【1】。

免疫抑制の主な特徴は、リンパ球やナチュラルキラー(NK)細胞の減少です。これにより、体内の免疫監視が低下し、感染症に対して脆弱な状態が続きます。脳卒中後の患者は、この免疫抑制により肺炎や尿路感染症などの合併症を引き起こしやすくなります【2】。実際、これらの感染症は脳卒中患者の予後に大きく影響を与えるため、免疫抑制を理解し、適切な管理が不可欠です。


2. 脳梗塞の方へ 亜急性期の脾臓について

脾臓は体の免疫機能において中心的な役割を果たす臓器であり、脳梗塞後の亜急性期に重要な変化が起こります。脳卒中後、脾臓は縮小し、脾臓に蓄えられた免疫細胞が血流に放出されます。これは脳内の損傷を修復するための防御反応ですが、その後、脾臓の免疫細胞が減少し、脾臓が萎縮することが確認されています【3】。

脾臓の免疫細胞の枯渇は、全身性の免疫抑制を引き起こし、感染症のリスクを増加させます。このプロセスは、特に脳梗塞後の初期段階で重要であり、脾臓の変化が感染症の予測因子となることが示唆されています。脳卒中後における脾臓の萎縮と免疫細胞の減少を適切に監視し、これに対する対応策を講じることが、合併症を予防するために重要です【4】。


3. 脳梗塞の方へ 亜急性期の自律神経について

脳梗塞後の免疫抑制には、自律神経系が深く関与しています。特に、交感神経と副交感神経が、脳卒中後の全身性免疫反応に強く影響を及ぼします。交感神経系は、脳卒中後に活性化され、アドレナリンやノルアドレナリンなどのストレスホルモンを分泌します。これにより、免疫細胞の抑制や脾臓の収縮が引き起こされ、体全体の免疫力が低下します【5】。

一方で、副交感神経系は「抗炎症反射」として知られる機能を果たします。副交感神経が活性化されると、免疫細胞が抗炎症性の反応を引き起こし、過剰な炎症を抑える役割を果たします。脳梗塞後の亜急性期において、この自律神経のバランスが崩れると、炎症と免疫抑制のバランスが乱れ、結果として感染症や合併症のリスクが高まります【6】。

最近の研究では、自律神経の調節が脳卒中後の免疫抑制において重要なターゲットとなる可能性が示されています。たとえば、迷走神経刺激などの治療法が、免疫機能を改善し、感染症のリスクを低減する可能性があります。今後、自律神経を介した免疫調節が脳梗塞後の治療にどのように応用されるかが期待されています【7】。


終わりに

脳梗塞後の亜急性期には、体の免疫機能が一時的に低下し、感染症や合併症のリスクが高まります。脾臓の萎縮や自律神経のバランスの乱れは、この免疫抑制に深く関与しており、脳梗塞後の回復を妨げる要因となる可能性があります。今後、免疫抑制をコントロールするための新しい治療法や、自律神経系をターゲットとした治療が、脳梗塞患者の予後改善に寄与することが期待されます。


【引用文献】

  1. Meisel C, Meisel A. Suppressing immunosuppression after stroke. N Engl J Med. 2011;365(22):2134-2136.
  2. Chamorro Á, Meisel A, Planas AM, et al. The immunology of acute stroke. Nat Rev Neurol. 2012;8(7):401-410.
  3. Offner H, Vandenbark AA, Hurn PD. Effect of experimental stroke on peripheral immunity: CNS ischemia induces profound immunosuppression. Neuroscience. 2009;158(3):1098-1111.
  4. Liu Q, Jin WN, Liu Y, et al. Brain ischemia suppresses immune surveillance through activating cholinergic anti-inflammatory pathway. J Clin Invest. 2017;127(4):1349-1362.
  5. Prass K, Meisel C, Höflich C, et al. Stroke-induced immunodeficiency promotes spontaneous bacterial infections and is mediated by sympathetic activation reversal with propranolol. Nat Med. 2003;9(5):553-559.
  6. Rosas-Ballina M, Tracey KJ. Cholinergic control of inflammation. J Intern Med. 2009;265(6):663-679.
  7. Benakis C, Brea D, Caballero S, et al. Commensal microbiota affects ischemic stroke outcome by regulating intestinal γδ T cells. Nat Med. 2016;22(5):516-523.

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大村 颯太

理学療法士/健康科学修士 京都 脳梗塞 脳出血 自費リハ 脳卒中後の自然に動ける身体づくりをサポートしています。

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