脳梗塞の方へ 全身性炎症② 急性期の全身炎症反応について
大村 颯太

脳梗塞の方へ 全身性炎症② 急性期の全身炎症反応について

はじめに

脳梗塞は脳の血流が突然遮断されることで脳組織に損傷をもたらす疾患です。その後、損傷した脳組織に対して体は免疫応答を引き起こし、その一環として急性の全身性炎症反応が始まります。脳梗塞後の急性期の炎症反応は、損傷の回復に役立つ一方で、過剰な反応が回復を妨げるリスクも伴います。今回は、急性期における全身性炎症の役割、特に腸内の白血球と腸内微生物叢との関係について解説します。

動画説明はコチラhttps://youtu.be/iG-AXZWBXHM


1. 脳梗塞の方へ 急性炎症とは

急性炎症は、脳梗塞発生直後に起こる体の防御反応です。脳の損傷部位からは「損傷関連分子パターン(DAMPs)」と呼ばれる分子が放出され、これが全身の免疫系を刺激します。この結果、血流を介して免疫細胞が脳に集まり、損傷した細胞や組織の修復を助けるための炎症反応が始まります。このプロセスは脳の修復に必要なものですが、過剰な炎症は逆に脳組織のさらなる損傷を引き起こし、回復を妨げる可能性があります【1】。

急性炎症反応は、損傷直後の24〜48時間が最も強く、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α、IL-1βなど)が大量に放出されることで全身に影響を与えます。この段階では、脳の血液脳関門(BBB)も損傷を受けるため、脳と体の間のバリア機能が一時的に低下し、全身の炎症が広がる要因となります【2】。


2. 脳梗塞の方へ 急性炎症と腸内の白血球

急性炎症が脳内で始まると、免疫系が全身で活性化され、腸内でも炎症反応が引き起こされます。腸は多くの免疫細胞が集まる場所であり、特に白血球の動員が重要です。脳梗塞後、腸内の白血球(特に好中球や単球)が血流に乗って脳の損傷部位に向かうため、腸内の免疫環境も変化します。

研究では、脳卒中後に腸内から白血球が動員されることが確認されており、これが脳の炎症反応を強化する一因となっています【3】。腸内の白血球は脳の修復に関与しますが、過剰な動員が腸のバリア機能を低下させ、腸内での免疫機能のバランスを崩す可能性も指摘されています。さらに、腸内の免疫環境が乱れると、腸内感染症のリスクが高まるだけでなく、全身の免疫機能にも悪影響を及ぼします。

腸からの白血球の動員は、脳卒中後の急性期における免疫応答の重要な側面であり、腸内の免疫環境を適切に管理することが脳卒中後の予後改善に役立つと考えられています。


3. 脳梗塞の方へ 急性炎症と腸内微生物叢

脳梗塞後の急性炎症は腸内微生物叢にも大きな影響を与えます。腸内には膨大な数の微生物が存在し、そのバランスは全身の健康状態に深く関わっています。脳卒中後、急性の全身性炎症が腸内に伝わることで、腸内微生物叢が変化し、悪玉菌が増殖するなどの腸内環境の乱れが生じることがわかっています【4】。

腸内微生物叢のバランスが崩れると、腸のバリア機能が弱まり、腸内細菌やその産生する毒素が血流に漏れ出すことがあります。これにより、全身にさらなる炎症反応が広がり、脳の回復に悪影響を与える可能性があります。特に、脳卒中後に腸内細菌叢の変化が動脈硬化や心血管疾患のリスクを高めることが報告されており、脳卒中後の患者にとって腸内微生物叢の健康は重要な管理対象です【5】。

さらに、近年の研究では、脳腸相関と呼ばれるメカニズムが注目されています。これは、腸内環境が脳機能に影響を与えることを示しており、腸内微生物叢を整えることが脳の回復にもつながる可能性があるとされています。たとえば、プロバイオティクスや食事療法を通じて腸内環境を改善することで、脳卒中後の予後を向上させることが期待されています【6】。


終わりに

脳梗塞後の急性炎症反応は、脳の修復に重要な役割を果たしますが、過剰な炎症が全身に広がると、腸内環境や全身の免疫機能に悪影響を与えるリスクがあります。腸内の白血球や微生物叢の変化は、脳卒中後の回復に直接影響を与えるため、腸内環境を適切に管理することが重要です。今後の治療アプローチとして、炎症の制御や腸内環境の改善が、脳卒中患者の長期的な回復に寄与することが期待されます。


【引用文献】

  1. Iadecola C, Anrather J. The immunology of stroke: from mechanisms to translation. Nat Med. 2011;17(7):796-808.
  2. Chamorro A, Meisel A, Planas AM, et al. The immunology of acute stroke. Nat Rev Neurol. 2012;8(7):401-410.
  3. Benakis C, Brea D, Caballero S, et al. Commensal microbiota affects ischemic stroke outcome by regulating intestinal γδ T cells. Nat Med. 2016;22(5):516-523.
  4. Singh V, Roth S, Llovera G, et al. Microbiota dysbiosis controls the neuroinflammatory response after stroke. J Neurosci. 2016;36(28):7428-7440.
  5. Stanley D, Mason LJ, Mackin KE, et al. Translocation and dissemination of commensal bacteria in post-stroke infection. Nat Med. 2016;22(11):1277-1284.
  6. Wang S, Ahmadi S, Nagpal R, et al. Probiotics, prebiotics, and synbiotics for the improvement of neurocognitive and psychiatric disorders. Neurobiol Dis. 2020;134:104707.

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大村 颯太

理学療法士/健康科学修士 京都 脳梗塞 脳出血 自費リハ 脳卒中後の自然に動ける身体づくりをサポートしています。

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