脳梗塞の方へ 全身性炎症① 概要編
大村 颯太

脳梗塞の方へ 全身性炎症① 概要編

はじめに

脳梗塞は、脳の血管が閉塞し、血流が途絶えることで脳組織が損傷を受ける疾患です。治療の焦点は、血流の回復や神経細胞の保護にありますが、近年、全身性炎症の役割が注目されています。脳梗塞後の全身性炎症は、脳卒中後の機能回復や合併症に大きな影響を及ぼすことが示されており、その理解は予後の改善に役立つ可能性があります。本記事では、全身性炎症が脳梗塞にどのように関与するのかを3つの段階に分けて解説し、回復との関係についても考察します。

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1. 脳梗塞の方へ 全身性炎症に注目

脳梗塞後、脳内で局所的に炎症が起こるだけでなく、全身性炎症も発生します。全身性炎症とは、脳の損傷が免疫系を刺激し、全身に広がる炎症反応を引き起こす現象です。この反応は、免疫細胞が活性化され、血中に炎症性サイトカインやその他の免疫メディエーターが放出されることから始まります。特に、インターロイキン-6(IL-6)や腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などのプロ炎症性因子が全身に影響を及ぼし、脳外の臓器やシステムにも広がることが知られています【1】。

脳梗塞後の全身性炎症は、脳内の損傷修復を助ける一方で、過剰な炎症が続くと二次的な損傷を引き起こし、回復を妨げることがあります。そのため、この炎症反応を適切にコントロールすることが脳卒中後の治療の鍵となります【2】。


2. 脳梗塞の方へ 全身性炎症の3つの段階

脳梗塞後の全身性炎症は、3つの主要な段階に分かれます。

急性期(24〜48時間)

脳梗塞が発生すると、すぐに急性炎症反応が始まります。損傷した脳組織から放出される「損傷関連分子パターン(DAMPs)」が免疫細胞を刺激し、全身に炎症が広がります。これにより、脳外の臓器にも影響を与え、感染症や心臓機能の異常などが発生しやすくなります【3】。

亜急性期(3〜7日)

急性期の炎症反応がピークを迎えた後、次第に免疫系は抑制に向かいます。この段階では、過剰な炎症を抑えるために免疫抑制が働き、感染症のリスクが高まります。脳梗塞後に肺炎や尿路感染症などが発生するのは、この免疫抑制によるものです【4】。

慢性期(数ヶ月〜数年)

一部の患者では、脳梗塞後に慢性的な低度の全身性炎症が持続します。この持続的な炎症は、動脈硬化や再発脳卒中のリスクを高め、回復を妨げる要因となります。また、認知機能の低下や神経症状の悪化にも関与している可能性があります【5】。


3. 脳梗塞の方へ 全身性炎症と回復の関係

全身性炎症は脳梗塞後の回復過程に重要な影響を与えます。適度な炎症は損傷部位の修復を促進しますが、過剰な炎症や長期間にわたる炎症は神経可塑性を妨げ、リハビリテーション効果を低減させます。脳卒中後の免疫調節療法が開発され、全身性炎症を適切に管理することが、患者の回復を促進するための重要なステップとなっています【6】。

たとえば、抗炎症薬の使用や、リハビリテーション中の適切な炎症管理は、全身性炎症を抑制し、機能回復を促進する効果が期待されています。また、生活習慣の改善や栄養療法も、慢性炎症を抑えるために重要な役割を果たします【7】。


終わりに

脳梗塞後の全身性炎症は、患者の予後に大きく影響を与える重要な要素です。炎症反応は回復に役立つ一方で、過剰な炎症や免疫抑制はリスクを伴います。したがって、全身性炎症を適切に管理することが、脳梗塞患者のリハビリテーションや長期的な回復において非常に重要です。今後、全身性炎症のメカニズムをさらに理解し、治療に応用することで、より効果的なリハビリテーション戦略が開発されることが期待されます。


【引用文献】

  1. Anrather J, Iadecola C. Inflammation and Stroke: An Overview. Neurotherapeutics. 2016;13(4):661-670.
  2. Chamorro Á, Meisel A, Planas AM, et al. The immunology of acute stroke. Nature Reviews Neurology. 2012;8(7):401-410.
  3. Iadecola C, Buckwalter MS, Anrather J. Immune responses to stroke: mechanisms, modulation, and therapeutic potential. J Clin Invest. 2020;130(6):2777-2788.
  4. Esenwa C, Elkind MSV. Inflammatory risk factors, biomarkers and associated therapy in ischaemic stroke. Nat Rev Neurol. 2016;12(10):594-604.
  5. Jayaraj RL, Azimullah S, Beiram R, et al. Neuroinflammation: friend and foe for ischemic stroke. J Neuroinflammation. 2019;16(1):142.
  6. Jin R, Yang G, Li G. Inflammatory mechanisms in ischemic stroke: role of inflammatory cells. J Leukoc Biol. 2010;87(5):779-789.
  7. Ridker PM, Everett BM, Thuren T, et al. Anti-inflammatory Therapy with Canakinumab for Atherosclerotic Disease. N Engl J Med. 2017;377(12):1119-1131.

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大村 颯太

理学療法士/健康科学修士 京都 脳梗塞 脳出血 自費リハ 脳卒中後の自然に動ける身体づくりをサポートしています。

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